「まあ、僕が疑われる立場なのはわかるけど。事故でも、事件でもさ」
仕方ない、責任者なんだから、と宮内は肩をすくめた。その動作で跳ねた髪がひょこんと揺れる。
「今ここにいるのは事故に関係してるかもってスタッフ達なんだよ。警察が話を聞きたいとか言って集めてるんだ。僕らはドリームランドからは出られない、鳥カゴの中ってこと」
「あっ、本当ですね……やっぱり仲山さんのいう通りになってる」
滝口美香は周りを見渡しながら、ぼそっと囁いた。
「仲山さんって?」
「あ、いえ。なんか警察の人がそんな風に」
「ふーん、捜査員がね」
あの、と一口飲んだお茶の紙コップを置いて、滝口は宮内に耳打ちする。女子大学生に近づかれて宮内は少し顔を赤らめた。
「宮内さんが追い出される前、システムにはどんな異常があったんですか?」
「あー……ほんとはダメなんだけど、こんな状況だから……」
システム運用部の仕事は機密事項も多いし、滝口さんは別部署だし、アルバイトだし……そんなことを呟きつつも宮内は話し出した。
「実は、事故の予兆なんてなかったんだよ。ドリームアイは何の問題もなく運行してた。ただ、正午になるちょっと前に一度だけ映像が乱れたくらいでね。しかも、ほんの一秒ってとこ」
「その映像っていうのは、防犯カメラですか?」
「いや、そっちじゃない。僕らしか見ることができない運行制御システムの画面だよ」
「え。それってハッキング?」
滝口が大きめの声で口にしたことで周囲は少しざわついた。それにハッとして彼女は顔を伏せる。
「まあ、もちろん僕もそう思った。うちのセキュリティシステムは相当なものだけど、過信してるつもりはないよ。そもそも、破れないセキュリティなんてないからね。それで、すぐにログを辿ってみたんだけど、外部から侵入された形跡はなかったんだ」