娘の死

日付が変わり直美の通夜が執り行われた。

直美の職場の同僚とか昔の同級生なども参列してくれて、最後の別れに多くの人達が涙して悲しんでいる事を隠さないで表現していたが、その参列者の中に元父親の姿は無かった。参列者名簿を見ても名前がない。やはり、雄二が考えていたとおりの人間なのかと思い、誰もいない場所に移動して再度、元夫の携帯電話に直美の本葬への参列依頼を録音したのだった。

次の日、葬儀場に朝早くから雄二夫婦と姉夫婦と数名の参列者が集まり、直美についての思い出話などをしながら本葬が開始されるのを待っていた。そして本葬が30分後に開始される時刻になって、ようやく元夫が姿を見せた。

そして焼香を済ませてまるで何事もなかったように姉夫婦の隣に立った時、喪主の雄二が元夫に向かって何か言いだそうとしたので、私は立ったまま慌てて雄二の腕を掴んで、首を左右に振って静止させた。掴んだ雄二の腕が小刻みに震えているのが分かったので落ち着くまで放さないでいたが、顔に怒りの表情が段々と表れていくのがはっきりと分かった。

そこで、姉に頼んで雄二を落ち着かせてもらい、何とか事なきを得た。そのあと元夫の様子を観察していたのだが、泣く事も言葉を発する事もしないで、ただ同じ空間に立ち続けるだけだった。元夫は実子の直美の死に顔を見て、いったい何を考えているのだろうと思っているうちに本葬が始まり、静寂の中に僧侶の読経が響き渡った。

そして、出棺し焼却され直美の身体が骨に変化し骨壺に入れる行為まで、元夫を含む参加者がほぼ無言のまま終了した。そして葬儀場に全員が戻り、次々と帰ろうとする人達に交ざって、元夫も帰ろうとしたので私は呼び止めた。

「赤羽さん、実の娘の直美が死亡したのに、まるで他人事みたいに本葬だけ出席して葬儀が終了したら急いで帰宅しようとする。私は元父親として、通夜と本葬に参列するように伝言しましたよね。けれど本葬だけしか出席しない。あなたは、実の父親として実の子の直美の死亡をどう考えているのですか?」

「非常に悲しい出来事だと思っているよ。だから、本葬に参列するため今日ここにいるじゃないか。昨日は都合がつかなかったから来なかった訳だし」

「実の親が実の子の通夜に参列しないなんて、あなたは一般常識が通用しないのですか? 普通は何があっても、実子の通夜および本葬に参列するのを優先させるでしょう!」