ある時、五歳になっても言葉が全然出てこない子が訪れてきた。彼は確かに言葉は出なかった。でも、大好きだという恐竜のフラッシュカードを作って、英語名をカードに書いて毎日教えた。一週間もしないうちに、恐竜の名前と恐竜とをマッチングさせることができるのを目の当たりにした。

ものすごい記憶力。かなり複雑な恐竜の名前を一つも間違うことなく五十近くきちんと覚えていたのだ。彼のこの才能を見出したわたしは、恐竜だけではなく、いろんなフラッシュカードを作り、ゲーム感覚で言葉を記憶してもらった。

数か月たったある日、とうとう彼が言葉を発したのだ。「はるせんせ」と他の子たちと同じようにわたしを呼んだのだ。その日、迎えにきたお母さんにその話をしていると、「はるせんせ」とまた呼ばれた。

それを目の当たりにしたお母さんは、涙でその場に崩れるようにしゃがんでしまった。奇跡が起こったと。そして病院に連れて行くと、お医者さんには、「医学的に証明できない。なにがきっかけでそうなったのだろう」と逆に聞かれたそうだ。

でも、わたしは何も不思議ではなかった。彼の記憶力はずば抜けているとわかっていた。彼には助走期間が少し長く必要だっただけで、自信がついて、準備が整ったら彼は必ず跳躍するだろうとわたしは確信していたのだ。

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