気がついたらこんなことに

医者はすぐに「良性の」と書いてくれた。良性の脳腫瘍か・・・なんだか信じられない。手術が必要だと言われた。二週間の暇がとれるか?とも聞かれた。ということは二週間で治る、この激痛ともおさらばできると信じた。八月の旧盆前後が最も忙しいから、今からだったら間に合うな、と簡単に計算した。

先生が「この痛みは普通じゃない。痛かっただろう? よく我慢したんだね」と言ってくれた。その時は、「ああ、やっと私の痛みをわかってくれる人に出会った」と思った。泣けてくるほど嬉しかった。

病室が空き次第、一週間以内に入院することになった。さあ大変だ。いろいろと自分の用意もさることながら、本業である野菜の配達のことを誰かに教えなければいけない。

わが家みたいに、生産と販売を兼ねている場合は、本当に時間との勝負なのである。どこのスーパーも開店前に野菜が欲しい。ギリギリでは間に合わない。どこよりも早く持って来て欲しいのだ。何軒もある場合、どのスーパーを一番にするか、それがいちばんの悩みなのである。

収穫は夫と息子がするだろうが、袋詰めが難しいのだ。特にトマトは重さを計って、見栄え良く袋に入れる。これを息子に頼むことにした。息子はていねいで器用である。ちょっと手は遅いがきれいな仕事をする。

私は、こんな経験は二度と無いと思って、大学ノートとペンを用意した。事細かに記録しておこうと思ったからだ。それと、今までできなかった勉強もしたい。農業簿記の本と農業労働管理の本を持った。

私は、何を考えているのだろう。まるで、長期の旅行のような気分なのか。そうなのだ! 神様が私に休暇をくださったのだ。私も「ああ、これでやっと休める」と罰当たりなことを考えたりした。

たしかに、毎日が忙しく休む暇もなかった。そのことを充実した毎日だと勘違いしていたのかもしれない。神様は、いい加減に目をさませ、と言わんばかりに私に忠告したのだ。

入院は個室だった。いかにも脳腫瘍の患者の部屋だ。でも、発作が出ない時は、まったく普通の人だから他人から見ると「どこが悪くて入っているの?」といった感じである。検査、検査の毎日だった。