売上げを心配する知世に高志は、団体客の時代は終わったこと、宴会場の稼働率が低かったこと、部屋数が逆にコスト負担を増すことを説明した。

「私はまだ、宴会場やバーを無くして客室数を減らすイメージが湧かないわ。お客様に何で楽しんでいただくの?」

「それは、客室での設えであり、静けさであり、本物の料理、真心のこもった接待だと思うよ。日本旅館の基本に立ち帰るということなんだよ」

高志は、旅館専門コンサルタントがシミュレーションしたものを知世に見せながら、宴会場やバーを無くして客室数を減らしても平均稼働率で損益分岐点を優に超えることを説明した。

そして、今自分たちがやるべきことは、快適に過ごせる日本的空間を心を込めてお客様に提供することで、そこには茜屋らしくない規模や騒音の元となる施設はかえって仇になることを力説した。

知世は考え込んでいたが、不意に目まいを起こして椅子から滑り落ちそうになった。高志は咄嗟に抱き留めて、ゆっくりとソファへと横にならせる。高志が心配そうに、気を失った知世の蒼白な顔を覗き込んで、

「今日まで休みなく来たからな……。心身ともに参っているんだよ」

しばらくして高志は、目を覚ました知世の体をソファからゆっくりと起こして、優しく抱き抱え、支えるように二人で家に帰った。

知世は本来寛容な女性なのに、火災のショックとストレスが重なり、だんだんと心身のバランスが不安定になってしまった。何とかしてやらねばと思案する高志であった。