「以上で全部です」

藤井奈々子さんは、泣いていた。私もお母さんも、顔をくしゃくしゃにして泣いた。

おばあちゃんは目を真っ赤にしていたけど、何も言葉にしなかった。喋ることもできなかったからだと思う。そういう風に見えた。

談話室の花は新しいものに変わっていて、レースのカーテンが外の日差しを白く光らせている晴れている日にこの部屋の空気は不思議だった。

頬を伝っていたものは、悲しみだけとも限らない。本当のような作り話のような文章に心が揺れた。

おばあちゃんは多くを語らないけど、体が藤井奈々子さんの伝言を受け入れていったんだと思う。

この日もかなり疲れた様子だったから。

おばあちゃんは藤井奈々子さんが日向子さん本人だとは思っていないだろう。さすがに本当の日向子さんであるならば判るはずだから。

でも藤井奈々子さんの言葉の奥に、日向子さんを重ねていたに違いないよ。 その日を最後に、藤井奈々子さんは来なくなったらしく、私も呼ばれなくなった。

決まっていた習慣が一つなくなってしまったように寂しかった。