後日、オカンが聞いた話では、[近畿厚生局麻薬捜査課]と名乗る電話が、僕の職場である北山病院の長井事務長宛にかかり、

「おたくの医師を、薬機法違反で逮捕したが、共犯者の捜査が続いているので、一切情報が漏れないようにしてください」と言われたそうだ。

それを、長井事務長が、上杉祥士理事長に報告し、加瀬弁護士が動いたのだろうと、この時は考えた。

しかし、まだ嫌疑の有無もわからない、推定無罪の一市民の職場に、そうした連絡を入れることは、適法なのだろうか。そもそも、電話を受けた長井事務長が共犯者という可能性もあるだろうし、そうすれば、彼が急いで証拠隠滅を図るとは想定しなかったのだろうか。

さらに、わざわざキンマから、そう依頼されたにも関わらず、まさに[情報を拡散する]べく、電話を受けた長井事務長と、報告を受けた上杉祥士理事長のみならず、病院長、副院長、看護部長、医事部長、検査部長から、事務次長、窓口の受付スタッフまで招集して、[賞罰委員会]なるものを開催し、未確定で不正確な[被疑事実]を、あたかも決定事項のように、[証人として出席した加瀬弁護士]が長々と披露し、僕の[懲戒解雇]を即決している。

これは、後日、僕の裁判に提出された[議事録]で確認した。

こんなに大勢のスタッフを集めれば、その中に、[共犯者]がいる可能性もあるし、そうでなくとも、情報はどこかから漏れるだろう。

アホやな。

話を戻すが、つまり、キンマからの電話により発覚し、理事長が、加瀬弁護士を差し向けたと、この時点では思っていた。

とはいえ、既に最初から[賞罰委員会]の開催は確定しており、いずれにしても、僕の嫌疑の有無に関わらず、また退職届提出の有無にも関わらず、この時点で、懲戒解雇にすることを、彼らは決定していたのである。人生の突然の暗転に打ちのめされている職員を(実は理事長は僕の叔父である)、さらにこんな形で、背中から突き落とすようなことをするものだろうか……。

ブラック営利企業であれば、そういう手法も有り得るかもしれないが、僕の職場は、厚生労働省管轄の、公的資金で運営されている、[思いやりをモットーとして謳っている]医療法人のはずだ。