第二章 日本民主保守党と先立つもの
この日から二週間後、武藤は内々に岡山で当選した新人議員と静岡のベテラン議員を伴って、ある場所を訪れていた。それは主に選挙用の街宣車を扱う特殊車両販売会社である。
三人で実物を見て回る中で、
「この与党と同じどっしりとした街宣車なんかいいんじゃない?」
と言うと二人の議員が一斉に、
「ダメです!」
と声を揃えて言った。すると武藤が、
「何でダメなの?」
と二人を質してきた。すると静岡選出の議員が、
「私の選挙区は長野県と静岡県の県境付近までという過酷な選挙区です。坂道も急だし、道幅の狭い道路もいっぱいあります。その為選挙の際街宣車を選ぶ基準は、せめて七人、八人乗りのワンボックスカーまでと決めているんです。こんな大きな街宣車は無用の長物でしかありません、東京都内を街宣して回るのと訳が違います」
と解説してみせた。すると岡山の新人議員が、
「恐らく、この街宣車を運転する為には、大型免許か中型免許が必要です。そうなると運転できる人が極端に限定されてしまいボランティアやこれまでお願いできた運転手さんに運転をお願いできなくなります。大きくて見栄えが良ければという考えは通用しません」
と、武藤がすっかり見落としていた視点を指摘した。
「……なるほど二人の意見はごもっともだわ。実際に選挙を経験すると色んな事が分かってくるのね」
と二人に向かって言った。
色々見て回る中で武藤が今度は、
「ねえ、五万キロ以上走っている中古車だと新車の四分の一で買えるんだけど、こういうのでもいいの?」
と二人に質問してきた。すると今回も二人が、
「ダメです!」
と声を揃えた。そして静岡のベテラン議員が、
「選挙の日程は変えられません、それと街宣車は警察の審査を受けますので替えがききません。その為選挙期間中の故障などのリスクは極力避けるべきなのです。そういった意味からすると五万キロ以上の走行歴のある車はリスクが高すぎます」
と的確な指摘をしてみせた。
ここで岡山の新人議員が、
「私はハイルーフのワンボックスカーも避けるべきと思います。私の選挙区はJR線のガード下を通る道がかなりの頻度であるのですが平均的高さ制限が三・七メートルくらいなのです。ハイルーフのワンボックスカーは二、三メートルくらいの高さがあります、それに看板とスピーカーを載せると通れなくなる道が大幅に増えてしまい効率が悪くなります。なので三列シートのミニバンにしておくのが無難ではないかと思えます」
と指摘した。