東京編

爽やかで平和な初夏の朝。

突然、それまでの静けさを切り裂くように鋭い金属音が接近し、次の瞬間にガシャーンという衝撃音。何事かと思って振り返るとショーウインドーのガラスに黒い外車が突っ込み、割れたガラスが粉々にフロアに飛び散っている。幸い開店前だったので人はまばらで怪我人もない。車の方に駆け寄って行くと、衝突でフロントが大破した車からサングラスをかけた白いスーツの若い男が降りてきた。

「悪りぃ、悪りぃ。ぶつけちゃった。後で弁償するから、急いで何か代車出してくれない?」

「君ね、何をふざけたこと言ってるんだ。どんな運転をしたらこんなところに突っ込めるんだ?」

「今日は本命の彼女とデートなんだよ。カッコいいスポーツタイプの代車出してくれよ」

「冗談じゃない。この状況で君は一体何を言ってるんだ。頭イカれているのか? デートどころか、すぐに警察を呼びます」

と僕が言ったら、奥の部屋からフロアマネージャーが慌てて飛び出してきた。

「角野(すみの)君、その人の言う通りにするんだ」

「何を言ってるんですか。代車って、彼の車は当社の車ではなく外車ですよ。それに事故だから警察を呼ばないと」

「幸い怪我人もいないし、弁償するとおっしゃっているので、早く代車をお出しして」

「ほらね。その人の言う通りにしろよ。スポーティでカッコいい車がいいな。色は黒がいいけど、贅沢は言わないよ」