第一章 トップ会談と候補者擁立

それから暫くして行われた三回目のトップ会談までの間に武藤は、擁立すべき人選を七割ほど固め、政権奪取の為の極秘プロジェクトチームをフル稼働させていた。

武藤はプロジェクトチームが人選した比例代表候補者一人一人と面接して、党首としてその人物が信頼できる人物かどうか?を見極めると同時に、その立候補への覚悟を示して貰う為、供託金の三〇〇万円は自身で用立てること等を確認した。

そして武藤は七割方決まった立候補者名簿を携えて、山脇との三回目となるトップ会談に臨むのだった。武藤からリストを手渡された山脇は、目を通しながら、「あれ? 君の名前が見当たらないようだが……?」と呟く様に言った。

「当然です! 党首には就きますが、立候補はしません! 野党のあの政党と同じです」と山脇に答えた。

「……なるほどそういう事か」武藤の心情を察した山脇が了解した。

「それで、最終的には何人を擁立する心算なのかな? まさか定員の一七六人じゃあるまい?」と山脇に言われ、

「目指すは一〇〇議席以上なので一三〇人から一五〇人の間を想定しています」と武藤が答えた。

すると、「国会議員として務まりそうな人材をどうやって一〇〇人近くもかき集めたんだ?」と質してきた。

「それがネットのお陰で、私が思っていたよりも簡単に有為な人材を集められました。最大の要因は与野党問わずブームとなった政治塾のお陰で、その政治塾の名簿がある筋から入手できたことで、此方が求める人材を容易に見つける事ができたのです」と種明かししてくれた。

「ああ、あの一時期、各政党がこぞってやった平成維新塾や竜馬塾等かー……なるほど思わぬところで役に立ったという訳だ」と山脇は合点がいったという顔をした。

「ええ、そうなんです。〇大卒だったけどホームレスを経験して、その逆境を乗り越えて再起した兵や、エリート官僚から政治家に転身したけど所属していた党が解党してしまって、バックボーンを失って大学教授になっていた秀才など、実力と即戦力を兼ね備えた人材が揃いました」と武藤が誇らしげに言うと、

「それはいいんだが、私の年ぐらいまで生きていると、簡単に裏切ったり、恩を仇で返す輩を見てきた。そんな事で議員になって、国費で政策秘書や第一秘書、第二秘書の歳費が賄え、自身にも領収書の提出を必要とされない文書滞在交通費が、月額一〇〇万円支払われるような生活を送る中で先生、先生とチヤホヤされると人間、初心を忘れ、己を見失うものが往々にして居る。そんな輩が不祥事でもしでかして、これまで築き上げた輝かしい君のキャリアに傷がついたりはしないかと、老婆心ながら心配なんだが……」と不安を口にした。