第1章 試行錯誤の毎日─リハビリ・介護生活から現在まで─
いのちの囁き
移住してきて3回目の秋でした。キッチンの窓から囁きが漏れてきます。妻の声でした。何か聞いてはいけないような雰囲気がありましたが、確かめたい気持ちも強く知らず知らずのうちに窓の下まで来ていました。
「どうして、こんな病気になってしまったんだろう。動くのが鈍い私がいけないから、怒鳴られても仕方がないけど。あんなふうに言われると本当に悲しくなる。私だって、一生懸命に努力しているんだよ。
分かってほしいとは思わないけど、いつも上から目線で怒鳴らないでほしい。いろいろ迷惑かけているし、家事もほとんどやってもらっているかもしれない。私だって、それでいいとは思ってないよ。
本当に情けなくってしょうがないよ。どうして、こんな体になってしまったのだろう。これから、どうなっていくのだろう。考えれば考えるほど、この先怖い。生きていけるのかしら。生きていっていいのかしら」
私は洗濯も掃除も料理といった家事のほとんどを、これまで40年あまり妻に任せっきりでした。
それにもかかわらず、これから先の何十年かを背負うことを負担に感じてしまうことがあります。そしてそれが積もり積もって感情的になってしまいます。声を荒げると、それがきっかけとなって一気にそれまでの不満が溢れだします。妻を傷つける言葉が止めどもなく出てきます。