お風呂はかなり身体のカロリー消耗度は高いと聞きます。でもさっぱりとして気持ちがよくなったためか、いつもの疲れた時の渋い顔も見せず、すこぶるご機嫌です。週一回のこのお風呂の日がとても待ち遠しいようです。
ドスコイお姉さまはこの間、周りのギャラリーとどこぞの興業ででも即使えそうな、テンポの早いボケと突っ込みパターンで会話を交わし、口も手もせわしく動かし、瞬く間に仕事を片付けて行きます。
他の群団のみなさんも、たくさんのタオルを使い、今夫を運び出した入浴用担架の支え棒一本一本まで、ていねいに洗剤で洗っています。
さすがだなあと感心しつつも、何一つ手伝う術(すべ)もなく邪魔にならないように見ているだけがやっとの私の情けなさ。
きれいに洗い上がったところで、またタオルに包まれて四人がかりでベッドのお城にお殿様のご帰還となります。ここまで来るとさすがに疲れたような顔を見せるようになってきた夫。
梅雨明けしたばかりの療養室は、いくら二十七度にエアコンが温度調節されているとはいえ、蒸気でムンムン。そこでベッドに熱をこもらせないためにベッド上の身体の位置を左右どちらかに少しずつ動かして、背中をうちわであおぎ、風を入れるのです。
ベッドで体位を換えることは人工呼吸器が付いているので本人はとても嫌がるのです。それに私たち家族にしても、あまりスムーズには出来ません。もししたとしても、ほんの少しだけ向きを換えるだけというようにするのです。でもこの体位変換は、病人にとってはとても大切なものなのです。
それを知っているドスコイお姉さまは、見事な戦法にでたのです。「いいい、堀内さん。片方をたったの三秒ずつだけ浮かせましょう。三秒だけですよ。はあい、イーチ、ニーイ」と言いながらこのお姉さまの手は激しくうちわを動かしているのです。ここまでは正攻法です。