「そうか……」

「その集井って、どういう方なんですか?」

柿久中尉は一言、

「海軍の中将」

と答えた。冷たいような響きがあった。

わたしはおずおずと、

「錦秋県に軍が派遣されるんじゃないかって、噂がありますけど……」

と聞いてみた。

「うん。みんな早く派遣されたがっているよ。錦秋はひどいことになってるからね。でも、いまは軍事費を削って、貧しい労働者や農民を救うために使うべきだっていう意見も強い。『告壇』なんかが、そういうキャンペーンをやってる。それに影響されてか、師団を減らすっていう話も、具体的に出てる」

わたしはなんとなく不安を感じた。『告壇』のキャンペーン、というのが引っかかった。いかにもいいことを言ってるように聞こえるが、よく考えてみると、それはフルグナに利することになるのではないか。

「たしかに福祉のお金は必要ですけど、でもそれは、国がきちんと独立していることが前提ですよね。フルグナみたいな国に併合されたら、貧しいどころか、死んだ方がましっていう目にあうんじゃないですか」

「そういう理解のある人が、増えるといいんだけど」

柿久中尉は笑顔を見せて別れを言い、駅の方へ去っていった。

わたしは薬局の人に言われたとおりの分量、やり方で、薬草を煎じた。異様な臭いがした。

わたしは心配になって、毒見のつもりで煎じ滓(かす)の汁を少し舐めてみたが、ほんとうに毒かと思うような味がした。

でも星炉さんはこれでいいのだと言い、コップ一杯分を一気に飲んだ。わたしは心の中で、「うひゃー」と叫んだ。

薬草のいやな臭いと味は、わたしの中で西純さんのイメージと重なって、しつこく残った。

西純さんは、ほんとうに不愉快だった。

わたしは貧しい家に生まれたが、それでも家族に少しでもいい暮らしをさせたいと思って、いっしょうけんめい働いてきたのである。

その人生を、いかにもみじめな、むなしいもののように見下して。偉そうに。