タブの広い部分には、ハンモックのような丈夫な布が六ヶ所、大きな金具によって吊るされ、張られています。群団のみなさまにうかがうとこれを『担架』というのだそうです。ここに夫は乗せられ、少しずつ湯の中へ沈められて行きます。

このときも、お湯の中に温度計が入れられており、夫の顔色を見ながら、湯加減を何度も尋ねながら、慎重に扱ってくださいます。このタブにお湯がたっぷりと張られると、身体のチェックを終えたドスコイお姉さま古川チーフのご登場となるのです。

「さあ、今日は何を使おうかな」入浴剤の選択です。

「何、ピンク? ああ、桜ね。それもいいけど、今はもう七月、マリンブルーの季節よ、堀内さん。ハワイへ行こうよ、ハワイへ。ゆったりと泳いでいいよ。決めた、決めた。きょうはマリンブルーに決めた」

ドスコイお姉さまの鶴?の一声で、ドボドボと容器から群青色の液体がバスタブに注ぎ入れられると、そこはもうハワイの世界。人工呼吸器ごと四人がかりで抱え込まれた夫は、酸素ボンベを伴ってハワイへ移住となります。

バスタブは見る見るうちにマリンブルーとなります。殊の外お風呂の好きな夫は、とてもご満悦の表情です。入浴用担架に乗せられた夫は、お湯にとっぷりと浸かって気持ちよさそうです。その間に、湯加減を何度も何度も尋ねられ、四人の方にタオルで全身をくまなく洗っていただき、まるでお殿様にでもなったようです。

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次回更新は9月17日(火)、11時の予定です。

 

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