初雪が降った日、わたしは都心の『忍冬(すいかずら)』という薬局に出かけた。

星炉さんはこの頃咳が続いていたが、それはこの季節によくあることで、そうしたときは、この『忍冬』で調合してもらった薬を飲めば、よくなるということだった。

薬を手に入れた帰り道、ふと見ると、大通りの広場に人だかりができていた。

集会をやっているらしく、『フルグナに断固たる制裁を!』という横断幕がかかっていて、若い男の人が、声を張り上げて演説していた。

わたしはそのまま通り過ぎようとしたが、

「政治家がくだらないことで揉めている間に……」

という言葉が耳に入ってきて、思わず立ち止まった。

城屋のことだろうか。

わたしは薬が入った巾着袋をしっかり抱え、そろそろと人だかりに近づいた。

しばらく話を聞いてみると、この集会を開いたのは、錦秋(きんしゅう)県の人たちだとわかった。

錦秋県は森や湖が多い土地で、フルグナと国境を接している。その国境線は、わたしが生まれた頃に結ばれた条約で決まった。

でもフルグナは、その条約はサントネスが勝手に結んだもので、自分たちには関係ない、錦秋の土地はもともと自分たちのものだったなどと、とんでもないことを言い出した。

そして去年からは言うだけでなく、勝手に錦秋県に入ってくるようになった。いろいろ問題を起こしていることは聞いていたが、演説を聞くと、実際はずっとひどいことになっているらしい。

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次回更新は9月7日(土)、11時の予定です。

 

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