第四章 波紋

「彼女はマスコミではずいぶんもてはやされているようだけど、あれはフェミニズムではなく、ただのワガママだと思う。

彼女が言ってるのは、義務や厄介事はいやだけど、権利や楽しみだけはちょうだいってことなの。女を差別するなっていうんじゃなくて、特別扱いしろっていうことなのよ。

女が差別されてるっていう不満や愚痴を言いふらすだけで、自分でそうした環境を変えようと努力することはしないのよ。それは自分がすることではなくて、国や社会がやるものだと思ってるんでしょう」

糸森さんは、最後に言った。

「亡くなった人たちのためにも、きちんと事実を伝えましょう。

その事実に基づいてどう考えるかは人それぞれだけど、誰かを陥れるために事実をねじ曲げて、亡くなった人たちを見世物にするようなことは、わたしも見過ごすわけにはいかないわ」

わたしは、自分の証言が載った『銀嶺新聞』の記事を見た。鈴花にも確かめた。

記事にはわたしの証言だけでなく、鈴花や他の社員、出入り業者の証言や、会社の資料なども載っていて、きちんと事実が書かれていた。

鈴花は、あの『告壇』の記事などより、ずっと説得力があると言った。

でも敬明が警告したとおり、世間のある種の人々は、そうは思わないらしかった。最初に聞いた話が、頭にこびりついているのである。

そうした人々は、ミホや由香李のお涙頂戴話にすっかり入れ込んで、わたしの方が城屋から金をもらって、嘘をしゃべっていると思っていた。