「だから、誤解だって。水野君も迷惑してるよ」

「そうなの。よしわかった。じゃ、水野君、見てきたら一時に出口の所で待っていて。色々買い食いしたからお昼はそれからということで。それじゃあ水野君、後でね」と言う裕子の後から気が付いたことがあり、慌てて殿に近づく。

「殿、時刻はわかりますか」私は急いで小声で聞いてみる。

「案ずるでない。スマホなる物の使い方を蔵人から指南されておる。今の時刻は十二辰をアラビア数字なるものに換えて時刻が成り立っていると教えられておる」と殿が変な事を。

「んぅーぅ、わかるって事ね」

私にはわからない事を言っていたが、とにかく理解はしているみたいだから、まあいいか。

なるようになるだろうと、考えることを止めにした私は裕子達の所へ戻る。

「ねぇ本当に放っておいて、良かったの」と聞いてくるふーちゃんを振り切り、

「放っておきましょう。ああぁー疲れる。皆のもの、参るぞぉー」と私は大きな声で言う。

「なあに、洋子まで時代劇になっているよ」

夏の陽光は多くある高い木々に遮られるも、昔、牛車が進んだであろう通りは、白砂が敷き詰められているので、照り返しで眩しい。

そんな中を涼やかな風に押されるように、私達は建築の彫りが綺麗だとか釘隠しの見事さとか蔀戸(しとみと)の格子が美しいとか、後、全体的に広いねぇ~とか社会で習ったところだとか、とにかくワイワイ言いながら結構見て回り、出口に着く頃には約束の一時を少し過ぎていたのですが、

……

待っていても殿が来ないんだよなぁ~。

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