冬の訪れと卒業式

千恵のがんの手術で十日ほど入院することから、ご飯の炊き方と洗濯機の使い方だけは教えてもらった。

「お米の研ぎ方は、一回目の水のすすぎは浸すだけ。その後、手のひらで揉むようにして、四回ほど洗って、はい、やってみて」

私は一回目からしっかりお米を研いでいたので、よく叱られた。私は強情な性格で、千恵が言ったことに、あまり聞く耳を持たなかった。TVでお米の研ぎ方を見ると、確かに千恵の言う通りであった。

私は自分のやっていたことを間違いと認め、千恵の言う通りに正した。洗濯機の使い方では、

「まず、このスイッチを入れて、次にこのボタンを押して、ここに洗剤を、ここに柔軟剤を入れて……」

と教えてくれた。千恵がいないことを想定し、数日後に一人でやってみた。お風呂のお湯取りができなかったのはばれなかったが、洗濯後の衣類を着た時に

「ちょっと痒いんだけど、ちゃんと洗剤と柔軟剤、正しく入れてくれたよね?」と聞かれ、

「ここに洗剤、そこに柔軟剤を入れたよ」

と自信を持って答えたが、どうも洗剤と柔軟剤の入れる場所を間違えたようだ。

「もう、使えないんだから!」と呆れられてしまった。

三月上旬、がんの手術のため、前々日から入院した。私も入院手続きや娘の中学入学の手続きのため、前々日から会社を休んだ。空いている時間は千恵の病室で一緒の時間を過ごした。

手術をする前日に千恵から質問された。

「この病院の窓って十センチ程度しか開かないんだけど、どうしてか知ってる?」

私は知らなかったので、素直に

「知らないけど、どうして?」

と返答した。千恵は、

「窓から飛び降り自殺できないようにしているんだって」