スクリーン ~永遠の序幕~
「起きなさい」
誰? 淡々とした男の声。親父の声ではない。おぼろげな視界の端に両親がいる。
「起きなさい」
まだ暗い。学校へ行く時間とも思えない。やはり聞き覚えのない声だ。両親の横には、数人の警察がいる。
「え」
驚いて飛び起きると取り押さえられた。
「今岡蒼斗(いまおかあおと)、18歳、10月8日午前5時、泉有希(いずみゆき)殺人未遂容疑で逮捕する」
両親の心配そうな顔を見ても、なんの感情も湧いてこない。警察官が業務的に逮捕状を見せる。しかし、俺は呆然(ぼうぜん)とするだけで瞬きもできず、否定する言葉も口から出てこない。
警察官と両親が何か言葉を交わしている。突然心臓がドクンという音を立て、早鐘を打つみたいに動悸(どうき)が止まらなくなる。心音は徐々に高鳴り、異常な速さまで加速する。
《カチャ》
手錠だ。ずっしりと重い。手錠の音と重さが硬直していた俺に現実を告げる。それから縄のようなものを腰に巻かれた。
〈俺はやってないから大丈夫〉
両親にこの一言だけでも言って家を出たかったが、いかにも「やりました」とでも言うようにうつむき、俺はおとなしくパトカーに乗り込んだ。
「これから干鶴(ひづ)警察署の留置所に入る」そう車内で告げられた。
頭の中は白一色であり、時刻の感じ方は一瞬だ。まるで信号一つで警察署に着いたかのようだ。
「ここが留置所だ。まずこの服に着替えなさい。その後で身長体重を測る」
俺はまるでロボットだ。何しろ実感が湧かない。しかし、それも束の間だった。着替え終わった自分の姿が、殺人未遂事件の容疑者であることをはっきりと告げていた。
「さあ、それではこちらに来なさい」
机を3つ4つ置けばいっぱいになってしまいそうな狭い部屋だ。机の上には紙のようなものとノートパソコン、そしてプリンターが置いてあり、刑事ドラマに出てくるイメージとは随分違う。窓もなく、殺伐とした雰囲気だ。ようやく手錠が外された。