千恵の気持ちが滅入っていると思い、クリスマスイブに横浜に出かけた。どこもカップルや家族連れでごったがえしていた。辺りの人は皆、楽しそうで幸せそうに見えた。他の人たちが羨ましかった。
千恵は写真が好きで、いつもなら、パパ、写真撮ってとせがむが、その時は何も言わなかった。私から、
「写真を撮るから、そこのクリスマスツリーの前に立って」
と言い、何枚か写真を撮った。空元気を装っていることは分かっていた。レストランに入ってメニューを見ていると、千恵が、
「あまり、お腹が空いていないんだ。でも、どうしてこうなっちゃたんだろう? 悪いことしたかな?」
私は返す言葉が見つからず、少し間をおいて、
「まだ、この先どうなるか分からない、治る可能性だってある。希望を持って生きよう」
と励ました。できれば、千恵と代わってあげたい。私がいなくなっても千恵や娘は、この先も元気に過ごしていけるだろう。私は千恵がいなくなった自分を想像することができない。ちゃんと娘を一人前に育て上げ、一人で生きていけるのか?と自問自答していた。
去年まで楽しかったクリスマスイブが一変した。できることならあの頃に戻りたい。
私たちは、横浜の夜景を後にして、早々に家路を急いだ。千恵は気丈な性格だったため、自分ががんになったことを自分の両親や姉に話をするのを躊躇(ためら)っていた。