その後、千恵も一日三、四回を二、三日繰り返してみた。一回の浣腸に時間がかかるうえにセッティングが面倒なことやがんの治療に直接関係するとは思えなかったため、数日でやめた。
大きな地震で生き埋めになり、助かった人の話を聞いたことがある。その方は、自分の尿を飲料として生き長らえたと話をしていた。医者は勧めてはいないが、非常事態の場合だから仕方のないことと割り切ったのだろう。本にも書いてあったので、
「飲尿ってがんに効くって書いてあるけど、やってみたら……」と誘ってみたが、
「それはできない、排出物なんだよ、飲むくらいなら死んだ方がまし。他のことだったらできると思うけど……」
それ以上無理強いはしなかった。病気には効くのかもしれない。もし、私ががんを患っていたら、飲尿はできただろうか? 藁にもすがる思いだった。
その他にもがんに効きそうな本やDVDを購入し、試しに行ってみたが、効果がありそうなものは見当たらなかった。やはり、医者に頼らざるを得ないのか? 私は、がんに効く方法を探してみたが、結局見つけることはできなかった。
十二月のある休日、私は都内の有名な厄除けの神社にいた。最も愛する人ががんになり、居ても立っても居られなかった。私は手を合わせ、
「神様、千恵を助けてあげてください」と何度も小さな声で叫んだ。どのくらいその場にいたか覚えていない。
帰りがけに厄除けの白い御守りを買い、千恵にそっと手渡した。千恵は一言、「ありがとう」と言っただけだった。