大山主幹という方です。東大の建築科を出た、新進気鋭の建築家です。仕事に厳しい方ですよ。さあ、時間がないので出かけましょうか」
伊藤は、既に出かける準備をしてきていたのか、カバンを持って立ち上がった。
松葉も、森山へのお礼もそこそこに、立ち上がり伊藤のあとを追った。
その事務所は四谷駅の近くにあった。レンガ造りの瀟洒な建物が、いかにも日本を代表している建築家の佇まいを感じさせた。
伊藤の仕事は、鉄筋コンクリートの建物の断熱材を販売施工することらしい。伊藤が大山主幹に説明しているのを聞いて、分かった。
伊藤は、自分の用件がひと通り終わると、松葉を紹介した。
「先生、アルミ鋳物メーカーの松葉工業さんです」
松葉は、慌てて名刺を差し出すと、「あっ、あとで持って来ますね」大山主幹は、そう言って、続けて小さな声で続けた。
「アルミ鋳物のメーカーさんですか。ちょうどよかった。今、美術館の天井格子の材料を検討していたところです。既製品は、殆ど薄いアルミ板をロールフォーミングしたものでカチッとしたところがなく、見た目が軽すぎて軽薄な感じがするのですよ。何かないかと考えていたところでした。アルミ鋳物でできませんか、こんなものですが」
と言いながら、先ほどの打合せの図面の裏に、フリーハンドでスケッチ図を描き始めた。
それは、150mm角の桝状のものが連続した120cm×300cmの大きさの天井格子だった。そして、高さが60mm、厚みは4mmと記入された。
「先生、抜け勾配は取ってよろしいでしょうか」
「できるだけ、0に近い方が良いですね」
「分かりました。先生、サンプルを作って参りましょうか」
「サンプルがあったら助かりますね」
「分かりました。1週間お待ち頂けますか」