迷いながら揺れ動く女のこころ

「私たちはジムで何度も会っているけど、ほぼ年齢が近いかな、くらいしか知らないのよね。でもお友達になれて良かった」

「私も、篠田さんが『私は独り身だから』とおっしゃったことに少し興味があったの。どんな人生を歩んでこられたのか、何か参考になるかと思い、気になっていました」

「あら、そうなんですか。私は二年前に離婚して、それまで生活していた二子玉川からあざみ野に越してきたの。二子玉川は私の実家があった所で、結婚した時に何かと便利ではないかとの思いから、実家近くのマンションにいたの。

子供の頃、多摩川の河川敷でよく遊びました。だから思い出が一杯詰まった土地だったから、いつまでも住みたかった」

「離婚の原因を聞いてもいいですか?」

篠田さんは、少し頭を上に向けて目を閉じてから、おもむろに「世間でよくあることよ」と言った。 

「私たちは、大学のクラブ活動の先輩、後輩の間柄で彼は二年上だった。彼は卒業後、大手化学会社に就職して、総務部に勤務していた。私は卒業して、二年間専門学校で服飾デザインの勉強をした後、大手アパレル会社に就職して、婦人服のマーケティングの仕事に就いたの。

その後も先輩とは浅い付き合いが続いた。当初私は結婚願望は全くなくて、婦人服のマーケティングの仕事が面白くて、地方への出張なんかも苦じゃなかった。三十才近くになったときに、彼からプロポーズを受けたの。

自分は仕事が恋人みたいな生活を送っていたから、気が進まなかったけど、両親に相談したら、もういい年だから決めたらどうと背中を押されたの。両親からは『結婚しても今の仕事を続けたいと彼に条件を提示すればいいことでしょう』と説得された。丁度三十歳の時だったね」

「篠田さんの仕事はやりがいが有りそうね」

「来年の流行のデザインや色調などを調べて仕入れ先へ発注したり、デパートなどの販売先を回り、自分の目で売り場の動向やお客さんの意見を直接聞くのも仕事なので、毎日変化があります。

ただ勤務がシフト制なので、皆がお休みの土、日が必ずしも休日にならない点がすれ違いですね」

「すれ違い、というと何?」

「すれ違いが元で離婚したということなのです」