迷いながら揺れ動く女のこころ
美代子は「私、駅から真っすぐ伸びている、けやき並木を歩くのが好きなんです。丁度今頃は落ち葉が歩道に一杯散らばっていて、その上をわざと踏みしめて歩き、落ち葉が砕ける音を聞くのが秋を感じます」
「あら、詩的ね」
「先日もジムが終わった後、昼過ぎに歩きながら、焼き魚の匂いに誘われて定食屋でお昼を食べました」
「そうだったの。あそこの定食屋はお魚が新鮮で評判がいいのよ。お昼時はいつもお店の前に列をなしてお客が待っている状態よ」
「篠田さん、ご存じだったんですか」
「そうよ、私は地元だからこの辺は詳しいわ。あそこの店主は湘南の腰越漁港に船を持っていて、週に三日は相模湾で魚を捕るらしいですよ。だからいつも季節の新鮮な魚が食べられるのよ。この前、店主と話をしていたら、漁の話になり、早朝4時頃に自宅を出ると言ってました」
「なるほどね」と感心したように頭を上下に振った。
「ところで山形さんの住まいはどちら?」
「私は青葉台です」
「まだ緑が残っていて、いいとこですね。私はたまプラーザ駅のお隣の、あざみ野なの。だから先ほど地元だと言ったの」
二人はけやき並木をおしゃべりしながらたまプラーザ駅に向かった。二人の手にはジムの着替えが入ったトートバッグを下げていた。