迷いながら揺れ動く女のこころ
「そうよ、山形さんも注意遊ばせ。二人で篠田、山形と苗字で呼び合うのはいかにも他人行儀ね。これからはお友達になったのだから、下の名前で呼びましょうよ。私は『陽子』。山形さんは?」
「私は『美代子』と言います」
「素敵な名前ね。美代子さんは青葉台でしたわね? 長いんですか?」
「まだ二年程です」
「お子さんは?」
「いません。主人と二人きりです」
「ご主人のお仕事、伺ってもいいかしら?」
「主人は在宅で個人事務所をやっていて、情報処理関係の仕事だと言っていました。私もよく知らないのです」と言い、笑いながらとぼけて見せた。
美代子はこれ以上のことには踏み込んでもらいたくなかったので、美代子が他の話題に振り向けようとしたが、陽子さんが「在宅だとご一緒の時間が長く、楽しいでしょう」「そうでもないのですよ。一度事務所に入ると、なかなか出てきませんし、私も仕事の邪魔になると思い遠慮しています」