第一章 嫁姑奮戦記

おばあちゃんの心のつぶやき

やっぱり家がええわ。病院なんか二度と行くもんと違うわ。皆に気い使うてしんどかった。

嫁が「私やったらひと月ほど入院出来たら嬉しいのになあ、但し病気はごめんやけど」と言う。全く気が知れんわ。どういう神経してんのやろ。

嫁は、うちがふた月も入院していたと言うてるが、そんな長いこと何で入院してたんやろと言うと、脚の骨を折ったと言う。買物行ってこけたんやったかな。この頃よう忘れるわ。何でこんなにアホになったんやろ。

右脚の付け根が痛いので嫁にこけたんかなと言うと「病院のベッドから落ちて骨折したって何度も言うたはずやけど」と言う。

「なんで病院のベッドから落ちるの」
「おでこにヘルペスって言うおできが出来たの覚えてるかな。それでAさんに紹介されて入院したんじゃないの。それで、入院した晩にベッドから落ちて骨折したってわけ」と言う。

なんや、そうやったんか。そういえば思い出した。おでこにけったいなもん出来て、気色悪かった。今でも何や痺れたような痒いような変な感じするわ。

今日シャワーの時初めて脚の手術の跡を見た。金物で骨をくっつけてあるらしい。どうりで変な感じするわ。歩くとやっぱり痛い。

嫁に杖をつくように再々言われるが、つい忘れてしまう。病院と違って布団から起きるのが辛い。人の助けなしでは立ち上がられへん。

もう少ししたらベッドが来るからと嫁が言っている。そしたら少し楽になるやろか。うちが退院したのを知って近所の人たちが様子を見に来てくれる。

病院にいた時もよく来てくれはったらしい。うちはよく覚えてないが嫁がよく言っている。

なにせ病院であったことはおおかた忘れている。嫁の話で、へえと驚くことが多い。病院の先生や看護婦さんにえらい迷惑かけ、お世話になったらしい。

「おばあちゃんは人の何十倍も迷惑かけたけど、看護婦さんは嫌な顔ひとつせず世話してくれはったんよ。忘れたらあかんよ」と言われる。ほんまや。忘れたら罰当たるやろな。