「この包帯みたいの何? 取ってくれへん」と言うので、「これは、おばあちゃんが点滴の針を抜かんように、ぐるぐる巻きにしてあるの。取ったら駄目よ」と念を押すが、そう、と言った後からもう取り外しにかかっている。

一時もじっとしていないし、理解出来ないのかすぐ忘れるのか、全く言うことを聞かない。揚句の果ては「さあ、家に帰ろか」と言って見舞い客を唖然とさせる。

「大変やねえ。あんたのほうが潰れへんか心配やわ」とため息をついて帰られる。

入院後ひと月もすると、シャワーの許可も出る。

娘に姑を頼んで夫と二人で大英博物館展を見に行く。現実を離れてしばし偉大な科学の世界を楽しんだ。

戻ってみると、およそひと月振りにシャワーを浴びた姑が清々しい顔で、お帰りと言ってくれる。シャワー室には娘とちょうど見舞いに来ていた姉が付いて行き、看護婦さんを手伝ったとか。

食欲も旺盛になってくる。以前は嫌々食べていたのに今はほとんど残さず、入院前より優秀だ。しかし、潰瘍の薬のせいか便がゆるく時々しくじり、その後始末に皆大変な思いをする。

外出許可が出たので、車椅子に乗せて病院の周辺や、近くの商店街に行ったりする。買物が好きな姑なので何か欲しがったり、あちこち見たがると思いきや、もう帰ろかとあまり喜ぶ様子もない。車椅子が恥ずかしいのか疲れたのか、おそらく両方だろう。

夫が付いている時、我が家まで車椅子で連れて帰って来た。五月というのに暑い日でおよそ三十分ほどの道のりを大汗かいて連れて来たのだが、姑はこれといって喜ぶ様子もなく、すぐ病院へ。

ひと月過ぎても夜は相変わらず動きまわり、妄想もきつい。

【前回の記事を読む】あまりにも妄想がひどく眠らないので、精神科の診察を受けた姑。睡眠薬をいただいたものの…

次回更新は7月20日(土)、14時の予定です。

 

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