絵本選びのこと
「島ひきおに」
文:山下明生 絵:梶山俊夫 出版社:偕成社
発売日:1973年2月 対象年齢:5歳から
この絵本は子どもたちの思いがけない感想に驚かされた絵本だ。
もとになったおはなしは、作者の山下明生さんが幼少期に過ごした、瀬戸内海の無人島に伝わる言い伝えだ。もとは引島と呼ばれていたそうで、鬼が引っ張ってきた島だから引島といったのだそうだ。
言い伝えでは島を引っ張ってきた鬼は、そこで力つきて死んだというのだが、作者の山下さんは「この鬼を死なせたくなくて、自分の空想のなかで、どこまでも海をあるかせました15」と絵本の「はじめに」で書いている。
また「私の最初の心のうずきは、孤独だったと思います。だれにも遊んでもらえぬ昼さがり、泣いてかえる白い道──そして、今日までこの孤独と愛の問題をひきずりながら、『島ひきおに』のように歩きつづけてきたような気がするのです」とも書いている。
この作家の生涯のことを私は知らない。だから、このことばの深い意味は分からない。けれども、絵本を聞き終わった子どもたちは、そんな作者の気持ちをそのまま受け止めているように思えたのだった。
この絵本の鬼は島にひとりぼっちで寂しかった。だから、友達が欲しくて色々な人に声をかける。「おーい、こっちゃきてあそんでいけ!」
けれども、人々は島に寄りつかない。だから、鬼は島の底をけずり、太い綱でしばって、島を引っ張って海の中を歩いていったのだ。
作者のいう通りなら、きっとどこまでも島を引いて海を歩きつづけているだろう。この絵本の対象年齢は 5 歳からとなっている。 2 月のおはなし会で読もうと思ったので、少し難しいかなと思いつつ年中さんクラスに読んでみた。
すると、意外にもみんな、きちんと聞いてくれたのだ。読んで良かったと思った。
読み聞かせたあとの子どもたちは「どうして、鬼は力持ちなんだろう」「うちにも鬼の本があるよ」「なんだかなつかしいね」という感想をつぶやいていたのだったが、あとから園長先生から聞いた話では「今日のおはなしおもしろかったよー」「つなひっぱるんだよー」と話してくれたそうだ。
大人がはじめてこの絵本を読むと、誰も遊んでくれない可哀そうな鬼の話だと思うだろう。その気持ちの中には、ひとりぼっちで寂しいという鬼の気持ちだけでなく、鬼を受け入れない人間たちにも焦点が当たっているのではないだろうか。そういう状況は可哀そうというとらえ方だ。
けれども、子どもは全く違う反応をした。目の前にいる島を引っ張っている鬼が「おーい、こっちゃきてあそんでいけ!」と言っている。