「ここからは毎日が限界との闘い。明日につなげましょう」と医師から告げられた。健常者には簡単な、寝る、座る……の単純動作すら妻には地獄の苦しみだった。

■2021年11月20日

今日で入院してから1カ月が経過した。妻は一進一退を繰り返している。夜は19時・21時・24時・4時の4回、鎮痛剤や睡眠薬を服用。夜は特に痛みに対する感度が高まりやすい。

中でも4時の痛みだけは強烈らしい。薬でも制御できない。昨夜に続き温かいおでんを一切れだけ買いに出て、脳の痛みを他の意識に変えながら朝陽を迎えた。

土日と祝日はリハビリ医師がお休み。姿勢制御が減退しないように2人だけで挑戦した。ベッドの背もたれを20度だけ上げた。時計の秒針をストップウォッチ代わりに、何分制御しながら会話できるか試した。

最初は姿勢制御ができず、怖くてパニックになった。励ましながら進め、1回目は5分。2回目は7分。30度の傾斜でも座ることができた。妻のオデコの汗をぬぐい、「よく頑張ったね」と優しく褒めた。

来週からは車椅子への移動訓練が始まる。何としても座ることを成功させてあげたい。

■2021年11月21日

薬の効能が切れた深夜から痛みが増した。睡眠薬と鎮痛剤を代わる代わる服用し、朝までつないだ。

今日もリハビリ医師は不在。ベッド上での起き上がり訓練を二人で続けた。ベッドの背もたれを30度立てると、妻はどうしても恐怖で目を閉じ縮こまってしまう。

携帯電話で動画を流し、目線の先を遠くに置く訓練に変えてみた。5分×2回=10分だけ元気だった頃の姿勢に近づけられた。夕方からは血尿が出始めた。無理がたたったのかも。可哀そうなことをした。

「どこまで頑張り、どこで停止すればよいの? 神様、無知な私に教えて下さい」と、暗い廊下で一人、涙を流しながら月に問いかけた。

【前回の記事を読む】夜、暗い廊下に出て「私の命と引き換えに妻を助けてほしい」と丸い月に何度も祈った

次回更新は7月21日(日)、16時の予定です。

 

【イチオシ記事】「気がつくべきだった」アプリで知り合った男を信じた結果…

【注目記事】四十歳を過ぎてもマイホームも持たない団地妻になっているとは思わなかった…想像していたのは左ハンドルの高級車に乗って名門小学校に子供を送り迎えしている自分だった