第二章

藤井奈々子さんは、話し続けた。

「その鯨が完成した頃、日向子さんが残したメッセージがありました。スーパーコンピューターである人工シロナガスクジラは様々な情報を日本中から集めて選択することができます。そして日向子さんの夢は彼が選んだ。そして託されたんです。」

「彼?」

「人工シロナガスクジラです。彼は人工知能を持って活動を開始した。だからすでにその時にも意思を持っていました。そして、記録が私たちの手元に届きましたの

で、こうしてご報告に上がりました」

(こうして?)私が不思議に思っていると、藤井奈々子さんがすかさず補足をする。

「彼はメッセージを届けるように手続きしたのです。瓶のメッセージも無事に届いた。そして私どもにアクセスしてくださった。あなた方ご家族は聞く耳を持っていらっしゃる。それも分かりました。だから、こうして今日はお目にかかれているのです」

「ですのでこれから何度か、お母様に報告するお時間をいただけないでしょうか。体調も含めて考慮し何日かのお時間をいただければと思います。もちろん、こちらから伺います。お金などはいりません」

そんなわけで、あり得ないようなつながりだったが、藤井奈々子さんという女性が杏南のおばあちゃんに会いに来て、目の前にいる。

第三章

藤井奈々子さんは、ノートパソコンに似た見たことのない端末を鞄から取り出した。

机に静かに置くと、端っこの方に触れる。そしたらフワっと明るくなって半透明のディスプレイが浮かんだ。

こちら側からは何も見えないけど、藤井奈々子さんはその辺りに視線を置くと、確認するように目で追っている。

「これはまず、日向子さんが楽しい場所に行った時のお話です。お母さまである橋本文代さんに宛てたものです」

そう言うと、不思議と対面しているはずの藤井奈々子さんがいないような感覚になる。空気が変わっていくように感じたと思ったら、藤井奈々子さんの声だけが耳に届き始めた。

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ほら、お母さんが病院に持ってきてくれた本の場所があったでしょ。

とても綺麗なブドウ畑の所。

アメリカにある丘陵地帯って書いてあった所。海岸沿いの町にあってね。

そこにクジラは連れて行ってくれたわ。

そこは、どこまでもどこまでも、見えなくなるくらい先の方までブドウの木が続いているの。そのブドウ畑の端っこは小さな頃お母さんと一緒に歩いた公園みたいな芝生があってね。私は芝生の上をブドウの木がある畑まで歩いて行ったの。

もうしっかりと私、両足で歩けたのよ。そして近づくとね、ほっぺがむずむずしてきたわ。だって、ブドウのいい匂いがとってもたくさんするんだもん。

ブドウの木にまあるくなっている実を触ったのね。そうしたら、プニプニとしてた。ブドウの実は紫色とか少し赤いのとか、ピンク色も混じったようなきれいな紺色もあったのよ。