しばらくして看護婦さんが病棟内を案内してくださる。姑と二人で付いて回り、分からないことがあれば聞いてくださいと言われ、私たちは部屋に戻る。外のトイレを利用して戻ってみると、姑がまた袋の中味を全部ベッドにぶちまけている。見ると先程あった財布がない。
「おばあちゃんお財布ないけど、ちゃんとどっかにしまったんやね」と聞くと、「うち、知らんで」と言う。ほんの四、五分の間のことだ。そこらを捜すが見当たらない。
ベッドの間、ロッカー、テレビ台の下、トイレ、洗面台の下、冷蔵庫の中まで捜すが見つからない。別に今使うわけでもないし、そのうち出てくるわと捜すのを打ち切るが、一応詰所にだけは言っておく。
「たった一週間の入院やからあっという間やわ」と声をかけるが「そうやな」と生返事。トイレの戸の開け方やナースコールの使い方を教えたり、ロッカーやテレビ台の下の物入れや引出しに入れてある物を確認させたりする。
部屋には付き添い用のベッドも夜具も用意されていないので、泊まらなくても大丈夫かと詰所で尋ねるが、大丈夫でしょうという返事。完全看護が導入されたから、よほどの場合以外、付き添いは駄目になったらしい。
そうこうしているうちに、勤め帰りの夫が様子を見に来る。トイレの戸の開け方がなかなか覚えられないので何度もやらせたり、ナースコールの使い方を再度教えたりして、後ろ髪引かれる思いで帰る。結局、心配で眠れぬ夜を明かした。
病院から何の連絡もないことから、無事だったのだと思い朝一番に詰所を訪ねる。「どうやら無事だったようですね」と声をかけると、どうも詰所の様子がおかしい。お互い顔を見合わせたりしている。
さてはと思い「また、何かやらかしたのでしょうか」と不安な気持ちで尋ねる。「ちょっとお待ちください」と詰所の外で待たされた後、実は昨晩二度もベッドから降りて床に寝ており、その都度ベッドに寝かせたが再び下に寝ていたので、ベッドに寝かせようと抱えたら痛がり、転落して骨折した可能性が大きいとのことであった。
次回更新は7月13日、20時の予定です。