看護師から「夜は痛みに対する感度が上がり孤独感も高まる。奈落の底に落ちていく感覚は多くの患者さんが感じている」と学んだ。
逆に朝陽は弱った人の心に、蘇りに向け大きなパワーを与えた。更に、朝方交代挨拶のために入室される看護師や、食事を運んで頂く方々の「おはようございます」という明るい挨拶には、安心感を抱いた。
「朝陽を待ちわびて」というフレーズは全患者さんの思いだと感じた。
妻は昨夜も激痛に襲われ、心拍数の異常を示すモニターの警報が鳴り続けた。自力呼吸が難しくなる局面が10分おきに発生。その都度、「死んではならぬ。一緒に大きく呼吸をしよう。よいか?」と声を掛け「ハ~フ~」と繰り返した。
その連続の中で朝陽が昇った。
光が乱反射して、妻は室内でも目が見えない様子。視覚不良では寂しさも一層募るだろう。様々な課題はあるが、まずは痛みのトンネルを通過させてあげたい。麻薬や鎮痛剤が効かない状態で何日か過ぎた。
10月16日以降、何も食べていないと妻から聞いた。みるみるうちに骨と皮だけになった。移動時に軽く持ち上げられる妻の体重。それが悲しくて悲しくて、首に掛けた私のタオルだけは涙で重くなった。
今日はスプーン2口分のおかゆを、すり鉢で5分間丁寧に溶き、6回に分けて口にそっと入れた。妻は時間をかけて飲み込みわずかに微笑んだ。それが今の妻の食事の限界。いつの日かお腹一杯食べさせてあげたい。