今回だけかもしれないけど、窓際の日の当たる場所には小さな棚とその上にお花が活けてある。薄いピンクが見える。花束のような華やかさはない淡い色の花が静かに咲いている。

(なんだろうこの雰囲気……)

「おばあちゃんにはこの先、死ぬまでここに居てもらいますよ」

そんな風に自治体の偉い人に宣告される場所みたいな、複雑でマイナスな想像をしてしまった。

もし仮にそうだったとしても、おばあちゃんは何にも口答えしない。ただ悲しい気持ちを押し殺しながら人生の終末を迎える覚悟をしちゃうのかもしれない。

(いいや、わたしがそうはさせない!)変な妄想の中に私はいた。

その部屋でおばあちゃんを真ん中にして、お母さんとわたしが両側に腰かけた。対面する藤井奈々子さんはもう一度小さなお辞儀をすると、話を始めた。

お母さんと話した経過とか、私の耳にはあんまりすんなり入ってこないけど事務的な話を最初にしてた。

おばあちゃんに何度か出来れば会わせて欲しいとか、これは商売じゃないとか、そう言ってた。

「やっぱりあの鯨は私たちに会いにきたの?」

私はそれが一番気になっていた事。だからたまらず聞いたんだけど、そうしたら鯨の話をしてくれた。

「あのシロナガスクジラは本物のように見えて実は本物ではありません」

「本物じゃない?」

おばあちゃんは何も口を挟まないのだけど、お母さんがすぐに反応した。