余談になるが、ツアー旅行の七年後、私は今度は両親と共にローマを訪れることになった。その時コインは二枚投げようと考えていたが、何とトレビの泉は改修中で泉の部分には水が一滴も入っていなかったのだ(母曰く、「トレビの白」状態になっていた)。私は急遽作られた小さな池に肩越しにコインを二枚投げ、次の願いが叶うようにと祈りを込めた。

五 爆発したわがまま、それでも関係は変わらなかったフィレンツェ・ピサ

その日、私は非常に不機嫌な状態で目覚めた。これまでは祖母とIさんとの相部屋だったのだが(勿論、急遽作られたベッドには私が寝ていた)、私自身小学校以前から寝つきがかなり悪く、ベッドに入ってから三十分以上経過しないと眠りに就けない体質だった。

耳もかなり敏感なため、眠りに落ちる前に何か少しでも物音がするとそれに引っ張られて途端に目が覚めてしまうのだ(大人になって一人暮らしを始めてから多少鈍感にはなったのだが)。

それが災いして、祖母とIさんとの相部屋に耐えられなくなってしまったという訳だ。二人は眠れたと言っているが、私のストレスはこの時最高潮に達していた。そして、勢い余って添乗員さんに言ってしまった。

「追加料金はかかっても構わないので私だけ一人部屋にしてください!」

彼女も私の剣幕に驚いたようで、すぐホテル側に交渉してその後のシングルルームを手配してくださった。