筋萎縮性側索硬化症患者の介護記録――踏み切った在宅介護
お願い、やめて!実況中継
そこでこの測定器を購入してから三年が過ぎ、毎日何十回と使っているので故障をしているのではないかということで、F社の三木さんに点検、修理をお願いしようということになったのです。
そういう状態が数日続いて、みんな緊迫状態でサチュレーションから表示される数字に耳目が集まっている最中(さなか)表示される数字を大きなよく響く声で四十七、四十九、五十、五十三・・・と指にサチュレーションを差し込んだ途端からこのヘルパーさんは発表をするのだからたまりません。
いつもお世話になっているヘルパーさんですから、我慢はしているつもりですが、みんな周りの人たちも口にこそ出しはしませんが、その数値にはピリピリしています。
そのような時、枕頭でテレビの実況中継さながらにカウントされたので、他のヘルパーさんも、私に複雑な目を向けてきたのです。
そこで慌てて前述のような茶化しながらの警告となったのでした。
その気持ちのわかった方は、私と一緒に大声で笑ってくれはしましたが、当の読み上げているご本人様は(私がわかるように親切に大きな声で教えてあげているのに・・・)と理不尽に思ったのでしょう。
カウントの読み上げこそ止めはしましたが、このことに対する返事は何もなく、帰りに自分の所属事務所の記録簿を所定位置に戻すのも忘れて、引き出しの上に出したまま帰ってしまいました。
慌てて取り繕いはしましたが、覆水盆に戻らず。私もいささかナーバスになっていたと反省させられました。私も若い世代の心を量ることが難しい歳になりました。トホホ。ごめんなさい。
この時、同席のもうひとりのヘルパーさんは、私たち家族のこのサチュレーションの異常に対する不安な気持ちをいち早く察知していて、少し変動が収まるまで、数値が上下することをいつもの測定の経験から判っているので、数値が落ち着くまでは黙っています。
とはいえ経過はきちんと私たちに知らせなくてはならないので、低い数値が出ている時は、ベッド上の夫には判らないようにして、私たち家族に見えやすいようにサチュレーションを斜めに傾けて、そっと見せてくれるのでした。
口にこそ出しませんが、この数値を私たち家族の中では誰よりも一番気にしている夫の性格を、見抜いている彼女の賢さでしょう。その優しい心遣いをとても嬉しく思います。
介護を職とする立場の人は、疾病に対する諸々の対処の仕方以前の、こうした心遣いが大切なのだとつくづく思い知らされました。