第三のオンナ、
まゆ実
悪気はないといったふうで、千春は口から親指を離した。
「思い出しました。たしかに振り返りました。目と目が合ったんですけど、彼女は話しかけてこなかったです。自分のほうから声をかけようかな、と思いましたけど、やめました。
向こうから見たらこっちは不審者ですからね。逃げるに決まってます。案の定、彼女はプイッと前を向き、歩いていきました。自分に興味がなかったんじゃないんですかねえ」
興味がない? そこだけちょっとひっかかった。
もしそうだとしたらあかねはわたしを狙ってる? それとも千春は後回し?
いずれにせよあかねに対する疑いが強くなった。無謀にもわたしに「会う」ことの意味を考えずに近づいてきたのだから。
わたしはもう一度整理した。
はるかが会った自身のそっくりさん→わたし、千春、あかね。
あかねが会った自身のそっくりさん→わたし(未確定)、はるか、千春。
千春が会った自身のそっくりさん→わたし、はるか、あかね。
ということになる。
「あ」
千春がまた思い出したような表情になる。
「そう考えると、自分も三人めに会ったことになりますかねー」
淡々とした物言いに、怖くないのだろうか、とわたしは思った。
あかねが首謀者かもしれないというのに。
「ねえ、先輩」
千春は目を細め、ふふん、といたずらっぽく口の端を広げた。
「どうせ死ぬなら、いっそのこと、どちらが先に死ぬか競争しません?」
この子どうかしてる。気味が悪いなんてもんじゃない。不気味そのものだ。
「どうします?」
そんな愚問、答える気にならない。
「ビビッてますね」
イラッとしたが、無視した。
わたしが何もしゃべらないでいると、千春はまた爪を噛んだ。
絶対にわざとだ。
ほどなく千春はひらめいた顔になり、爪噛みをやめる。
「じゃあ、こういう案はどうです? 自分が先輩の影武者になるとか」
パチン、と千春は親指で中指を弾いた。ナイスアイデアと言わんばかりに。
「先輩の服、貸してください。そうすれば簡単に影武者のできあがりです。先輩が死ぬ確率下がると思いますよ」