第三のオンナ、
まゆ実
千春はコートで幹事のイガラシ君に個人レッスンを受けていた。変わらずにイガラシ君は目尻を下げ、デレデレしている。わたしはつかつかと歩いていく。
「おー、城戸。久しぶりに俺のレッスン受けたくなったかあ? こいよ。双子姉妹が並んで素振りなんて絵になるじゃん」
イガラシ君が手招きしている。あんたに用事はないの。わたしは無視し、真っ直ぐに千春のほうへと向かう。
「そうそう。昨日、三茶にいたよな」
イガラシ君から思いもよらぬ言葉が出て、わたしは「えっ」と足が止まった。
「三茶って?」
「三軒茶屋だよ。アレ、何かのコスプレか?」
思い出したように笑っている。
「すごいきんきらきんだな、あの金髪。千春ちゃんも偶然見たんだってよ」
「嘘でしょ?」
わたしは再び歩みを進め、千春の前にやってきた。
「ちょっといい?」
と凄みを利かせた顔で袖を掴み、千春をコートの外へ連れ出す。
「なんだあ?」
イガラシ君は、ぽかーんと口を開けていた。
「説明して」
校舎裏に移動すると、わたしはすぐに聞いた。
「なんで、わたしだなんて嘘つくの?」
「面白いじゃないですか。先輩、否定するでしょ」
「当たり前じゃない」
「だから面白いんですよ」
千春がせせら笑う。
「否定すればするほど、みんなから嫌われる。こんな面白いことってあります?」