わたしは頭を働かせた。けれど、見当がつかない。知らない人なのだから思い出せるはずがない。その一方で大きな疑念が生じた。
ドッペルゲンガーにまつわる伝説は事故死に見せかけた殺人ではないのか。だから、九十九はるかは交通事故で急死したのだ。
首謀者は千春かあかね、あるいはツイン・ファクトリーとは関係のない第三者の仕業ということになる。
わたしは急いで頭の中を整理する。この場合、第三者の線はいったん外そう。考えたところでわからない。
はるかが会った自身のそっくりさん→わたし、千春、あかね。
あかねが会った自身のそっくりさん→わたし(未確定)、はるか、千春(未確定)。
千春が会った自身のそっくりさん→わたし、はるか、あかね(未確定)。
未確定というのは、「会う」の解釈を決めかねているからだ。「見かけた」と「会う」とでは意味が違うと、わたしは思った。
「見かけた」は相手が認識していない。「会う」は顔を向き合わせているのだからお互いに認識している。この解釈に当てはめるとわたしの場合はこうなる。
昨夜、わたしは、カーテンのすき間から目だけを覗かせてあかねを「見かけた」が、彼女はわたしの顔を認識できていない。それ以前にあかねはわたしの顔を見たかもしれないが、そのときのわたしは彼女に気づいていないので、「会った」ことにはならない。
千春のケースはどうだろう。
あかねとは知り合いじゃないと発言した。つまり千春は、あかねを「見かけた」のであり、会ってはいない。逆にあかねにも同じことが言える。あかねは千春を「見かけた」かもしれないが、会ってはいない。
いずれも千春の発言を信用する、という前提ではあるが……。
千春はたった今嘘をついたばかり。
わたしは念を押すように聞いた。
「本当に知り合いじゃないの?」
「ええ」
「さっき、後をつけたって言ったよね? 彼女、振り返らなかった?」
「えっと……」
千春は親指の爪を噛んだ。その行為に、わたしは改めて気味の悪さを覚えた。
「わざとやってる?」
「はい?」
とぼけた顔をする。
「爪よ」
「ああ」
【前回の記事を読む】「昨日どこそこにいたよね?」問題が再燃。その人、私じゃないのに信じてもらえず…