実態のない海外渡航をいかに現実の出来事に近づけるか、偽りの旅だとふたりに見抜かれないようにするにはどうすればよいか。九条の生活はそんな気苦労に支配されつつあった。

何故そんな嘘を必死に重ねるのか。もはや彼女にはそれを自分自身に問いかける余裕も、それをしようとする思考すら彼女の中からはなくなっていた。

幸いなことに、異国の知人たちは九条が定期的に現地でしか手に入らない食品やポストカード、ポスターなどを料金と引き換えに送ることを快く引き受けてくれた。

「あなたが私たちの国のことを覚えていてくれて、その文化を日本に持ち込もうとしてくれる姿勢が嬉しいの」とあるフィンランド人の女性に食器をオーダーしたときに、了承のメッセージと共に添えられていたその言葉を見たとき、九条は彼女の優しさと気高さを噛み締めながら、自分の浅はかさを恥じた。

千鶴と美夏に対する罪悪感はずっと続いていたが、知的で愛情溢れる親日国家の友人をも私は騙して利用しているのではないか、という仄暗い感情に目眩がした。すべては自分が引き起こしたことである。

「ここ数年の海外旅行は、実は私の虚栄心によるでっち上げだったの」

そう告白してしまえば、どんなに楽になれるだろう。きっとふたりは自分を責めたりはしない。むしろ今までの自分の無意味な気遣いに謝罪すらしてくれそうだ。でも、その状況に対面する勇気は、九条にはまるでなかった。

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