自分が育ってきた環境とは異なる文化や言語に触れることで、自分の居場所を確認しようと躍起になっていた。

学生が終わった後も定職に就かずにそれを続けようとする彼女を、母親はついに咎めなくなった。それこそが九条が求めていた瞬間であり、彼女が旅の終止符を打つタイミングでもあった。そう思っていたときだった。最後の異国から帰ったその日に、街で偶然にも千鶴と再会したのだ。

久方に対面した九条に、千鶴は驚きと喜びの言葉を述べながら自分の身の上話を早口で述べた。その中でも、だいぶ前に結婚をしており小学生になる子どもがいることは、すぐに把握できることだった。

そして彼女からの誘いに、九条は戸惑いながらも笑顔を見せた。旅行中に小さな雑貨店で購入した安い腕時計は、大きく時差を持ったまま彼女の手首で動いていた。

千鶴の家で出会った彼女の愛娘は、容姿は父親の遺伝子を強く受け継いだ存在であり、纏う空気はふたりのどちらにも偏っていなかった。

九条は彼女の父親、すなわち千鶴の配偶者をリビングに飾られた旅行写真でしか確認していなかったのだが、目の前にいる少女がすでに確立された人間であることを直感で読み取った。

数ヶ月に一度、海外旅行中に知り合った現地の友人に連絡を取り、その国の菓子や食品を入手する。それを適当な袋に詰め、美容室で髪型を大幅に変更したその足で千鶴の家を訪れる。