ベスト・オブ・プリンセス

千鶴は一年生の頃から、校内では派手で目立つグループの一員として認識されていた。

彼女たちは主に、高校受験の際に滑り止めとしてこの学校の入学試験を受け、不本意に女子校の生徒となった人たちの集まりで、女子だけの学校生活に不満を抱くゆえに男子校の文化祭に積極的に出向き、その繋がりを通して他校の男子学生たちとの交流関係を広げるなど、男女の恋愛に強い興味と行動を示す人たちだった。

しかし、千鶴自体は選んでそのグループに属していたわけではなく、入学時になんとなく仲良くなった彼女たちと流されるように行動を共にしていくうちに、他校の男子たちとの仲ができているだけだった。

そのため、文化祭のときに再会してしまった男性とも、アプローチを断り切れなかった彼女が、相手から押し切られるような形で恋愛関係に至っていたということだった。

それを聞いた九条は、彼女の気の弱さに少々の腹立たしさを感じたが、誰にでも優しくしてしまう彼女の性質上仕方のないことなのかもしれないと、それ以上の追求はしなかった。

また何よりも、それを咎めることで、自分が欠点と感じている部分に向き合わなければいけない状況ができてしまうことを、避けたかったからである。

九条は、資産家の祖父とその娘である母親、婿養子で九条家に入った父親、ふたりの兄と暮らしていた。九条の母親は難産の末に誕生した子どもで、出産の数日後に祖母は亡くなった。

その悲しみを受け入れ切れなかった祖父は、多額の財産と大きな屋敷を持て余し、たった一人の我が子の育児を使用人に任せ、感情を紛らわすように女遊びを繰り返した。そんな祖父のもとで育った九条の母親は、祖父の二の舞を作らぬようにと、自分の子どもたちには厳格に接し、英才教育を施した。

その結果、ふたりの兄は母親に従順な人間となり、名門大学に入学した。

その一方で、末っ子で唯一の女児として誕生した九条は、母親の言い付けこそは概ね守るものの、それと同時に母親に対する煮え切らない思いを抱き続け、それは歳を重ねるごとに、元来の気の強さと比例するように大きくなっていった。

その結果、九条と母親の間には根深い軋轢が生じ、ふたりの会話は重く鈍い音を立てた。緩衝材となるべきだった父親は、祖父と母親の前では常に遠慮をしており、見守るという建前で家族関係から逃避していた。九条にとって父親は、家の名字を残すためだけに必要とされた、哀れな存在だった。

千鶴と仲良くなったことを家族に知られぬよう、九条は母親に放課後の予定を聞かれた際は、初等部や中等部からの友人の名前を伝えていた。

千鶴の存在を知られれば、彼女が仲良くしていた面々と、彼女たちの情報および普段の行動が割り出され、それに対して母親が目くじらを立てることは目に見えていたからだった。