水曜日は、他の曜日より早く授業が終わる日だった。九条の門限は厳しく設定されているため、千鶴と遊ぶにはこの日しか時間がなかった。

また、そのまま付属の女子大に進む九条とは違い、千鶴は他の四大もしくは短大への進学を希望していたため、千鶴にとっても、放課後の時間は限られていたのだ。ふたりが遊び場所として選んだのは、学校から地下鉄で五駅目の場所にある、小さな映画館だった。

そこで作品を鑑賞してから、近くの喫茶店で感想を語り合うというのがお決まりのパターンだった。映画のチケットは、いつも千鶴が用意していた。彼女の父は大手一般企業に勤めるサラリーマンで、仕事の取引先からその映画館のチケットをもらう機会が多くあり、それを千鶴が譲り受けていたからだった。

幼少期より、祖父からの小遣いとして大きな金額をもらっていた九条は、初めは無料で映画を観ることを躊躇し、千鶴にチケット代を渡そうとしたが、千鶴はそれを拒んだ。

誰の意見も鵜呑みにする印象があった彼女が自分の申し出をきっぱりと断ったことは、九条の心の中に強く突き刺さり、それ以降、千鶴と彼女の父の恩恵を甘んじて受け入れることにした。

ある日観たのは、フランスのラブロマンスだった。ふたりが観る映画のラインナップはジャンルこそ様々ではあったが、ヨーロッパ圏の作品が上映されること自体が少なかったため、九条は特に心を躍らせて映画館の座席に着いた。

しかし、展開の波が乏しく極めて情緒的な作品だったため、彼女の心の琴線にはあまり触れぬまま上映時間は過ぎていった。

物語の中盤で、主人公の女性とその片思いの相手が、夜のカフェバーで向かい合わせに座り、テーブルの下で脚を絡ませるシーンがあった。

言葉も交わさず、視線も揃わないふたりが自然にその行為に至ったことを九条は不可解に感じたが、千鶴はそこがよかったと、帰りの喫茶店でうっとりと話した。彼女もまた、作品のすべてを理解できたわけではなかったが、そのシーンが実に印象的だったのだという。

それを聞いた九条は、いたずら心で千鶴の両脚の隙間に自分の左脚をそっと差し込んだ。わずかに触れないほどの距離感を保つように置かれたそれに、相手はどんな反応を示すのか、果たして気が付くのか、そんな思いがよぎった。

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