邂逅

マカロニも嬉しそうに尻尾を振る。

「何をされているのですか?」英良が仕事を聞くと「サーカスで獣医をしているものですから……」彼女は答える。

「今日はお休みですか?」と彼女が尋ねると「ええ……ちょっと」英良は言葉を濁した。

「私、今日は非番だったので、この子を連れて散歩していたんです」少し歩いていたがマカロニが英良の方を気にして見ているように感じてならなかった。

「何歳ですか?」

「二十八です」彼女は答えた。「いや……この犬の年です」

「ああ…一歳七ヶ月です」彼女は悪びれもせず答えてくれた。それを聞いて英良も安心した。

「若いんですね?」

「ええ。でもまだ子供ですけどね。お名前聞いても良いですか?」と彼女が言うと「峠原英良です」

「私は相川さつきです」と彼女は答える。英良は暫く公園を歩き彼女と別れた。

 

半醒半睡……英良はこの状態の時にいつも不思議な事象に逢着する。英良は就寝して間もなく毘沙門天から声が掛かってくるのを感じた。毘沙門天は冥府の奥深くを進んでいたが漆黒の闇の中に不穏な気配と遙か前方に悪意を感じた。

「堵榔瑠(とろる)か……!」……多勢に無勢の餓鬼の群が後にいた。

「英良様?」

「どうした毘沙門天殿?」

「何やら不穏な気配を感じまする。お力を頂けませぬか?」

「力……何をしたらいい?」

「力天の力をお願いしたいので御座います英良様。可能な限り下され。英良様のお力があれば悪行三昧を尽くした者どもを打ち破れるかと……お願い致す英良様」

英良は力天を詠唱した。光に力天の言霊が載り、光陣が毘沙門天に降り注いだ。毘沙門天は僅か二度羅生門を振り下ろし堵榔瑠三兄弟を斬り捨てた。羅生門の凄まじい光の煌めきで周りの餓鬼達もたじろぎ後ずさりを始めた。

毘沙門天が餓鬼の集団を睨み付けると、餓鬼は一斉に退散を始めた。毘沙門天は力天の力で逃げまどう餓鬼を斬り捨てていった。

最後に残った餓鬼の親玉の大餓鬼を一刀両断に斬り捨てた刹那のこと。その大餓鬼は英良の名を断末魔の声と共に発して消滅した。

「有難きお力に御座いました。英良様」毘沙門天からの声が聞こえる。

「我の前に立ちはだかる闇は斬り捨てましたが、大餓鬼を斬り捨てる時にそのモノが英良様の名を叫んでおりましたぞ」

「私の名を?」

「御意。英良様の名はここ冥府でも知れ渡っているので御座いましょう。あまり良いことでは御座いませぬな」英良は毘沙門天の話を聞くたびに寒気がした。

毘沙門天はある強力な力に引き寄せられさらに冥府の奥へと進んでいった。

「あれは!」

毘沙門天の視界に数十体の餓鬼とその中にひときわ目立つ餓鬼が二体映った。その餓鬼は衛兵のように一つの祠を守っていた。