お嬢様の崩壊

翌朝、少し熱が下がった。具合が悪いことは家族に言えず、そのままパートに出かけた。通勤電車の中ではマサキの曲を聴く。札幌での華やかな姿が思い浮かんで少しにやにやしてしまう。

友希恵さんは三泊四日の予定なので今日も休んでいる。しかしいつもの単調な仕事も、なんだか今日はいつもより少し楽しかった。まだ少し熱っぽかったが、我慢できた。

帰りに池袋の地下街を歩くと浮浪者がうろうろしている。いつもなら避けて通るのに、優しい目で見てしまう自分がいる。一人で札幌に旅をしたことで、自分が一回り大きくなったような気がした。

自分はこんなはずじゃなかった。どうして自分だけ不幸なのだろうと、いつも不満で眉間にしわが寄っていたのに、今日はしわが消えたような気がする。疲れているのに気持ちが元気なのだった。

駅の中の汚らしい通路さえも光って見えるのはなぜだろう。

そうだ。札幌で食べたじゃがいものグラタンが美味しかったから今日はそれを作ってみよう。メニューが決まると買い物も楽しい。美味しいものを作ってみんなで食べることが嬉しくなった。

いつもなら夫が帰ってくると思うだけでお腹が痛くなるのに今日は、まだかなと思ったり。台所に立って料理を作りながら鼻歌を歌ったり。

私が楽しそうにしていると、子どもたちもいろいろ話してくれる。友達のことや、学校のことを聞きながらにこにこできる。しずかも札幌のコンサートの話を楽しく語り始めた。