そうか、子どもたちが口をきかないのはもしかして私のせいだったのか?と気づく。お母さんがいつも疲れきっていて不機嫌だから話しかけられなかったのかもしれない。急に申し訳ない気持ちとかわいそうな気持ちでいっぱいになった。
翌週、北海道で買ったお菓子とラベンダーのポプリを持って実家の母を訪ねた。ずいぶん久しぶりだった。
実家は兄の家族が両親と同居していた。
母はいつも優しく迎えてくれるが、以前のように気軽には帰れなくなった。合鍵で勝手に入るのは気が引けるので、チャイムを鳴らしてから「お邪魔します」と言って実家に入る。
札幌のお土産を渡し、この旅行で感じた喜びを誰かと共有したくて、恐る恐るマサキのことを話してみた。
予想通り、札幌までアイドルのコンサートに一人で行ったと聞いて、母は心底驚いていた。それでもしずかのことを否定することはなく、にこやかな表情のまましずかの話を聞いてくれていた。
お茶を飲みながらおしゃべりをしていると「あら、いらっしゃい」と二階から義姉が下りてきた。椅子に座って話の輪に加わった義姉も、札幌の話を楽しそうに聞いてくれる。
結婚前のしずかの部屋は改装して兄たちのリビングになっている。そのとき、(あぁこれで離婚しても戻る場所がなくなった。私の家ではなくなるんだなぁ)と悲しかったのを覚えている。それまでは当たり前にしていたソファでごろごろくつろぐこともできなくなった。