別のテーブルでは、白雪が「昨日はよく眠れた?」と誰かに訊いている。
「よく眠れたわ。久し振りだったので嬉しかったわ」と弾むようなソプラノがかった声が答えている。
「それはよかったわね。幸枝さん」白雪は笑みを浮かべて言った。
えっ、幸枝さんだって――。
晴美は白雪のテーブルの方向へ(それは晴美のテーブルより少し北に位置していた)、慌てて目を向けた。幸枝はショートカットで、年齢としては二十六、七に見えた。頬がピンク色をしており、極めて健康的に映った。
明るいイエローのジーンズを穿き、薄手のホワイトセーターといった出で立ちで、ざっと見るとすっきりしており、全体的に清潔感が漂っていた。
よかった。私の好きなタイプだ――。
晴美は納豆を頬張りながら、自然に頬が緩んだ。その様子を見ていた薄化粧が、晴美に声を掛けた。
「嬉しそうだね。よかった。デイケアが気に入ったみたいで――」
「ありがとうございます。薄化粧さん」
薄化粧は〝薄化粧〟という言葉に吃驚して、
「えっ、何? 私、もしかして『薄化粧』というニックネーム?」
晴美はつい、うっかり調子にのって、晴美が思いつきでつけた呼び名を吐いてしまった。
「あっ、すみません。気にしないで下さい。私が勝手につけただけですから……」
薄化粧は、一瞬驚きはしたものの、自分の核心をよくついているなあと、感心した様子に見えた。
「なるほどね。私、あまりごてごてと厚化粧するのが嫌なのよ。化粧をしているかどうかという際どいところでとめているの」