三 アメリカひとり旅

荒野を走る「グレイハウンドバス」。

バスに乗るときは、いつも後部座席と決めていた。しかし、今回の長距離の移動は、いちばん前の座席に座った。なぜなら前方の景色が一望できるからだ。後部座席からの景色は、見渡す限りの荒野で、なんの変わりばえもしない景色の連続だったが、前方の座席は、フロントガラスを通じて足下から延びる一直線の道が見られる。

この景色も同じ景色の連続だったが、その延々と続いている道の先には目的地があると思うと、なにか希望が持てた。

遙か彼方の地平線の先には、

「まだ見ぬ楽園があるのではないか?」

という希望があった。

 

今回のバスの中の滞在時間は、半端ない。停車地点と停車地点との間の距離を考えると、半日はかかりそうだった。時刻表などなかったので、持っていたガイドブックの地図から距離を推測し、想像するしかない。バスの運転手に訊くのがなんとなく恐かったので、

「自分を自分で信じるしかない。」

と少しずつ思うようになっていった。こんなに同じ姿勢を保ちながらバスに乗っていたのは初めてだった。退屈を通り越して、だるさと嫌悪感とがごちゃまぜになって、

「窓を突き破って脱出したい。」

という気持ちだった。

しばらくすると、その「しばらく」という感覚ももう全くわからなくなってしまっていたころ、前方からニョキッと大きな山脈が見えてきた。最初は、

「別の大陸か?」

と思うほど、それは巨大な物体だった。

ハッと気が付いた。

「ロッキーだ!」

と、大声で叫んだ。運転手がビックリするほどの大きな声で叫んでしまった。

「これがロッキー山脈か!」

と、感無量だった。もちろん生まれて初めて生で見た。

 

恐ろしく巨大だった。まるでこのバスに迫り来るような、一歩でも近づけば飲み込まれてしまいそうな恐怖を感じた。今までの風景が一変した。砂漠の荒野から瓦礫の地獄絵図をみているような気がした。

「こんなおんぼろバスでこの山を越えられるのだろうか?」

と不安になった。確かにバスのエンジンの回転数もかなり上がっていた。妙に音がばかでかい。

「こんなところで故障でもしたら、助からないだろう。」

と唾を飲んだ。乗客は自分も入れてたったの五人。バスが止まったら、五人で押すわけにもいかない。それに、すれ違う車などなかった。いや、こんな長い一本道を行き来する車などあるはずがない。現に今まですれ違う一般車両など出くわさなかった。バスの中から自然の驚異というものを初めて感じた。