しばらくの間、この川を見ながらバスはミズーリ州セントルイスに着いた。バスの車窓から巨大なブーメランを縦にしたようなオーナメントが見えた。
「なんだこりゃ。」と思った。「ゲートウェイ・アーチ」というらしい。かつて西部開拓の夢を抱いた人たちがセントルイスを起点にカリフォルニアやオレゴンを目指して旅立っていったという。そのシンボルを形としているのか。街のどこからでも見える。夕刻、太陽に照らされて、綺麗な影を街に落とし、夜は照明を当てられ、くっきりと存在感を示していた。写真を撮りまくった。
バスは、ミシシッピー川本流から離れ、しばらくの間、一直線の道を行く。「しばらく」といっても、これがとんでもなく長い時間だった。ガイドブックや持参の本を読んだり、カセットテープの音楽を聴いたりしながら、時間の感覚を消し去るようにした。日本から持ってきていたカセットテープは、「長渕剛」と「チャゲアンド飛鳥」の曲だった。何度も何度も繰り返し聴いた。帰国してから彼らの曲を聴くたびに、「ひとり旅」の場面が思い出されてくるほどに聴いた。曲ごとにどこにいて、どんな状況だったのかが思い出されるほどに幾度となく聴いていた。
バスは、オハイオ州シンシナティに着いた。もうすでに夜中だった。迎えの車が来ていた。バスが着く時間をあらかじめ聞いていたのか。当時は、携帯もスマホもない時代だったから、お世話になった校長先生と、今度の校長先生との間で手紙や電話でやりとりしていたにちがいない。あらためて二人の校長先生に心の中で感謝した。