おーい、村長さん

私はこの日野多摩村が大好きだ。不思議な縁で訪れた村。兄にも感謝しなければ。

村長の「影武者」の仕事も本音を言うととても楽しくてやりがいがあり、まんざらでもなかった。もしかすると、兄よりも私のほうがこの村のことが好きなのかもしれない。山も川も滝も。村の人たちのことももちろん大好きだ。

都心より、新宿より、自分の部屋にいるより落ち着く。日野多摩村のパワーに導かれてここに来た。私は来るべくしてこの村に来たのだ。そうだ、生涯この日野多摩村で暮らそう。ここで村の人たちと楽しく伸び伸びと生活をしていこう。

そして村長に立候補して、兄の後を継ごう。不安はあるけれど、きっと青山助役たち職員や葛西会長たちがバックアップしてくれるはずだ。道半ばで涙を飲んだ兄のためにも次は「本当の村長」となって村のために働こう。私は、そう腹を決めた。

今までの人生でここまで悩んで決断したことはなかった。中途半端な人生だったけれど、私は日野多摩村で村長になるために生まれてきたのだ。これからは日野多摩村のために生きていこう。私の残された人生を日野多摩村に捧げよう。

この日、私は村役場に寄ることなく実家へと帰った。そして翌日、電話で青山助役と葛西会長に村長へ立候補する旨を伝えた。

それから一週間後。私は再び日野多摩村役場へとやってきた。役場の職員が総出で大歓迎してくれた。ただ現在は一般人である。青山助役と葛西会長が村役場の玄関先で待ち構えていた。

「村長、ではなく権田原さん。ありがとうございます。どうぞこちらへ」

にこやかな青山助役、葛西会長と一緒に応接間へ入った。

「ご決断ありがとうございます。村の人たちは皆喜んでいますよ」

葛西会長も屈託のない笑顔で出迎えてくれた。

「悩みましたが、家族とも相談して決めました」

私も少しハニカミながらお辞儀をした。

「ありがとうございます」

だが青山助役の顔が少しだけ深刻になった。

「じつは、一つだけ気がかりなことがありまして」

青山助役は渋い顔をしながら話を続けた。