第一章 イマジン
文子はベッドから起き上がり、看護師の手に支えられてスリッパを履き元の椅子に座った。
純二郎は、必要な検査項目を目の前のパソコンに打ち込み、看護師に指示した。
「早速ですが、受付に提出された人間ドックの検査報告書を拝見しました。確かに、腹部超音波検査で膵臓付近に〝しこり〟らしいものが見えると所見に書いてあります。人間ドックの検査結果を再確認するため、今日は血液検査、尿検査、腹部超音波検査を行います。
明日、本日の検査結果を総合的に判断して、胃カメラと同じような方法で、超音波内視鏡で検査するかどうか判断します。因みに、一之瀬さん、人間ドックで胃カメラ検査をされておられますが、鼻からでしょうか、それとも口からでしょうか?」
「先生、口からです。人間ドックの先生は、鼻のほうが楽だと言われましたが、ご覧のように鼻孔が狭いものですから、なんとなく気が引けていつも口から挿入して貰っています」と文子は応えた。
「因みに、超音波内視鏡検査は、口からカメラを挿入します。今日の診察はこれでおしまいですが、これから看護師の指示に従って検査をし入院していただきます。明日午前中に再度診察します。入院手続きは、早乙女さんにお願いしたほうが良いと思います」と純二郎は瑠璃を見て淡々と話した。
文子は看護師の指示に従い、隣の検査室に入った。瑠璃は診察室を出て総合受付のある病棟に行って、入院手続きをすませ検査室に戻ってきた。
意外にも早く検査は終わったらしく、「瑠璃、たった今検査終わったから……」と少し疲れた様子だった。
文子は、診察室と同じ病棟の八階、四人部屋の病室に入院することになった。遠くに富山湾が見える窓側のベッドを用意してくれた。四人部屋だったが、一人しか入院していなかった。
二人は、先に入院されている方に簡単な挨拶をし、文子は病院のパジャマに着替えベッドに横になった。瑠璃はベッドの横にあるパイプ椅子に座り、窓から海を眺めた。水平線の向こうに、かすかにタンカー船のような船がゆっくりと航行しているのが見えた。
文子は瑠璃に向かって、「今日の検査はなんてことなかったのに、入院となると気が重くなり疲れたわ。私少し寝るけど、瑠璃、あなたどうする」と言って文子は目を閉じようとしていた。
「そうね。お母さんの夕食が終わったら、帰ることにします」
「それがいいわ。病院の夕食は早いから、もうすぐじゃない」
「入院手続きのとき説明受けたんだけど、朝食八時、昼食十二時、夕食六時だそうです」
「あら、そうなの。あと一時間半ぐらいあるから少し寝ます」と文子は言って目を閉じた。